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青幻記


奄美諸島の沖永良部島を舞台に母と子の美しく厳しく辛い思い出を、過去と現在を交差させて描いた名カメラマン成島東一郎の初監督作品。成島監督は、この作品の映画化に執念を燃やし、青幻記プロを作って、製作、脚本、監督、撮影をこなした。一色次郎原作。

私は、この映画を福岡市中洲にある福岡東宝名画座で封切り時に見た。福東宝名画座は、私のお気に入りの映画館で良く通ったが、ATG映画を常設で上映し、それ以外は欧州のマイナーな芸術作品を掛けており、座席数の少ない小じんまりした映画館であった。

この映画は、淡々と物語が展開し大きな出来事は起こらないが、武満徹作曲の音楽と撮影がこの幻想的な映画を強く補強し、素晴らしい仕上りを見せている。
武満徹は、これまではどちらかと言うと映像に対立する厳しい音楽を創って来たという印象だったが、ここでは物語に寄り添うような叙情的な大きな音楽になっており、フランス印象派のドビッシーを更にモダンにしたようである。私は,これ以降、武満の映画音楽に深く耳を傾けるようになった。

音楽は大きく分けて2つの響きがあり、一つは独奏オーボエ、ハープ、ギター、チェレスタ、オーケストラによる哀しみを帯びた美しい音楽で、断片的な音楽が浮かんでは消え、透明な澄んだ抒情が広がっていく。武満らしくオーケストラの編成が厚く無く、各楽器が明瞭に分離して聴こえ、海の広がりと重なっていく。
もう一つは、マリンバを中心として、蛇皮線、チェンバロ、弦楽器が沖縄音楽特有のリズミックな響きを描いていく。

何れも音楽の透明感と奥行きが素晴らしく、武満徹の傑出した代表作といっても良い。
彼は、この時期は全盛期で映画音楽でもかなりの秀作、傑作をものにしているが、この作品は、彼のイマジネーションを特に刺激したものと思われる。

映画は、大山稔(田村高廣)が30年ぶりに沖永良部島を訪ねるため、鹿児島に寄るところからから始まる。
昭和の間もない頃、母 佐和(賀来敦子)30歳、稔小学校2年生の物語である。
幼い稔は、父が亡くなり父方の祖父(伊藤雄之助)の家に身を寄せ、祖父の妾たか(山岡久乃)から辛く当られ肩身の狭い生活をしている。当時を回想し、幼年時代の稔を現代の田村高廣が見つめている。味方になってくれた発明家の祖父も小学校入学後、間もなく亡くなり、苦労する。虫取り器を売って歩く稔の姿。

船員(小松方正)と再婚していた母は病気で離婚され、稔を引取って、着の身着のままで逃げるように実家の沖永良部島に船で向う。
二人は、潮の寄せる砂浜に降り立ち、島の反対側の実家に歩いて向う。
白い珊瑚礁に囲まれた蒼い海、咲き乱れる島の花々、蘇鉄などの緑の木々が眩しい様に描かれる。時は止まったようで静かに移ろう。
病弱な母は、途中、水牛の車に乗せてもらいながらも貧しい祖母(原泉)の家に着く。泣き崩れる祖母の姿。金の米と呼ぶあわご飯を御馳走する祖母、当惑する稔の表情。

砂浜の祖父への墓参、小学校で毎日歯磨きをしているとして苛められる稔、母は学校から帰る稔を暖かく出迎えてくれるが、病気の感染を恐れて「抱いてあげる事は出来ない」という、貧しいが、愛情に囲まれた穏やかで平穏な日々が描かれる。

場面は変わり、大人の稔が今は無き屋敷跡に佇んでいるところで鶴禎じいと再会する。昔の母子と村の様子が鶴禎じいから少しずつ語られる。美しい佐和の17歳での旅立ち、秋の十五夜に敬老会での岬を舞台とした凛とした佐和の踊り、母の死体を運ぶ筵、埋葬、どうしても母の死を受け入れようとしない稔、初七日に霊媒師ユタによる亡き母の口添えが描かれる。

最後は、稔と魚採って楽しく遊ぶ母の姿、満潮に稔を救って寄せる海に呑まれていった母、墓所での骨あらためと母子の情愛の深さが美しい自然の中で謳い上げられる。

この映画は、豊かな自然と時間が辛い過酷な過去を浄化し、美しい思い出に変えていく事や子供にとって母親は永遠なるものである事を上手に描いている。それから過去と現在の時間を交錯させ単調な作りとしていない事も優れていると思う。
また貧しいながらもハレの日の紋付袴姿やユタの存在、島唄など島特有の文化の香りも印象深かった。

出演者では賀来敦子や凛とした子役の大井一成が好演である。それにも増して、祖母役の原泉、鶴禎じいを演じた藤原鎌足がしっかりした存在感を示している。

原泉は、奄美の方言も上手にしゃべりながら情深い祖母役をしみじみと演じている。彼女は年寄り役が多かった怪優だが、実生活では文学者中野重治の奥さんであり、佐多稲子との関係などもその内、調べてみたい。

また藤原鎌足の声の演技力には眼を見張らせられた。美しい佐和さんを慕う控え目な言葉遣いの見事さ、黒澤明監督の作品に多く出演し、優れたバイプレーヤーであったが、本作品での抑制の効いた演技力は円熟の極みである。

theme : 映画感想
genre : 映画

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映画、クラシック音楽、料理、ゴルフが好きな中高年男です。 家猫1匹、外ネコ3匹に遊んでもらっています。

ボクダノビッチ

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