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乱 (1024x678)

三郎勢の軍馬が渡河するシーンに興奮したが…


2月20日は、作曲家 武満徹の命日である。
1996年の雪の降る日に亡くなったことを昨日のように憶えている。もう17年が過ぎたのか !! 最近は、武満徹の映画音楽のレコードを良く聴くが、清冽な響きは今でも古びていませんネ。

武満は、黒澤明監督と『どですでん』と『乱』の二作品で作曲をしている。
『乱』では、黒澤監督と大ゲンカをし、その後、二人は袂を分かっている。
武満が彼を評して、「黒澤という人は、とても強固な意志を持ち、独断に過ぎる人でした」と認め合っているところもある。

黒澤は、『乱』で武満に嫌いなティンパニィを多用させ、マーラー風の音楽を求めたとある。今聴き直してみると、武満の音楽は、映像に媚びず凛として映画を活かしていると思う。抒情的ではなく、叙事的な音楽である。
前半の三の城の落城シーンや後半のマーラーを思わせるレクイエム風の曲の悲愴感も良い。何よりも風が吹いている様子を漂わせて自然の描写と合っている。

さて映画『乱』である。
封切り時に劇場で観たが、「影武者」同様良いとは思わなかった。むしろ期待が大きかっただけに失望したというのが正直なところであった。
今回、二回目を観たが、印象が変わったところもあるので感ずる事を書いてみたい。

その壱
映画は戯曲を越えているか?

『乱』は、シェイクスピアの戯曲「リア王」からの翻案である。
三人の娘を三人の息子達(武将)に置換え、甘言を弄する長男、次男に、城主秀虎が城・地位を譲り、直言の三男を追放する。しかし、長男、次男からは裏切られて荒野を彷徨う物語である。
良く知った話だけに映画では、シェイクスピア劇を突き抜ける何かが足りなかったと思う。ストーリーの予測が容易で意外性が無い、これは大きな欠点である。

映画『蜘蛛巣城』は、「マクベス」の翻案であっても能の様式を取り入れたり、最後の戦闘シーンで三船敏郎が矢を射られるシーンなどモノクロの深みと映画ならではの緊迫感、感興があった。
やはり、リズムが重いのである。

黒澤監督は、「秀虎は私自身だ」と語ったという。製作した時は、70歳を越えている。彼の信頼した者からの裏切り、悲嘆、老いの悲しみ、耄碌、死の恐れ、孤独感等の老境の思いが更に色濃く出ていれば、映画はもっと違った形になったのではと今にして思う。
当時の観客は、私も含めて、クロサワ映画の往年のダイナミックな展開、迫力を期待していたと思うし、これにおもねる気持ちから中途半端になったのではないかと感じている。

その弐
映画の色彩感は、素晴らしい。

感じるのは、空の青と草原の緑が鮮やかなことだ。親族間の内輪もめの話は、興味を惹かないが、舞台となる背景は美しい。
また三軍を赤、黄、青と色分けした工夫も明快で良かった。画家出身の監督らしく、色彩に配慮した映像には満たされるものがある。
気になったのは、赤の色合いで濃い独特なものである。夥しい数の死体と血の跡、腕を切り落とされた者なども、これまでの黒澤映画に観られないものであった。

その参
くすんだ登場人物たち

主人公秀虎を演じた仲代達也は、白粉を塗った面で気性の荒い役を熱演だが、シェイクスピアの大芝居を見ているようで興が削がれた。
小姓のピーターは、狂言回しで、軽みの中に厳しい皮肉(真実)を語って秀虎の肺腑を突く役だが、少し弱いと思う。

特に残念だったのは、戦国武将たちの表情が良く見えず、髯面で甲冑に隠れ、区別が付け辛かった点である。太郎、次郎、三郎さえ最初は、はっきりしなかった。増してや参謀重臣達は個性が見えなかった。
クロサワは、「35mmフィルムならともかく、70mmでは出来ないよ」と顔をクローズアップで撮らなかったためでもある。残念と思う。

光っていたのは、太郎の嫁の原田美枝子。復讐心を秘めた冷酷なキャラを作り上げ、素早い立ち居振る舞いも際立っていた。次郎の重臣の井川比佐志も存在感があり好演だが、人柄が良く見え損をしている。


私が黒澤映画をリアルタイムで観出したのは、1970年の『どてすかでん』からである。当時、新聞等で黒澤は天皇と称され、神格化された巨匠であったが、私は遅れてきた観客で、映画を観ると何故持ち上げられるのか?虚像ではないかとの思いが強かった。彼の全盛期の凄さは後日解かる事になるのだが‥。
晩年の作品では、『夢』と『まあだだよ』が感情をストレートに吐露しているようで好感を持っている。
黒澤監督は、教養主義的なところもあり、一部インテリからは思想の底が浅いと貶されてもいたが、良い意味での人間肯定のヒューマニストであったと思う。これが大衆から圧倒的に支持された訳だろう。

『乱』を製作した80年代は、個人の価値観が多様化し、教養主義的なシェイクスピア劇だけでは共感が得られない時代であった。何か映画的なこちらの想像を超えるものが欲しかったと思う。

傑出した統率力で描いた大パノラマの戦国絵巻だが、彼の滅びの美学は活かされたのだろうか。


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映画、クラシック音楽、料理、ゴルフが好きな中高年男です。 家猫1匹、外ネコ3匹に遊んでもらっています。

ボクダノビッチ

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