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ビックアイズ

人は絵を観ながら作者のことを考えている


ティム・バートン監督の新作である。
絵描き出身の監督らしく、1960年代の画家とそれを取り巻く人々の状況をコミカルに描きながら、絵画大衆化時代に対する洞察が感じられ、出て来る絵にも不思議な力があり引き込まれた。

本映画は、本当の出来事に基づくとある。
1958年の北カルフォルニア、マーガレットは暴力夫から一人娘と逃げ出し、親友のいるサンフランシスコに落ち着く。マーガレットは、親友から「モダンアート、ジャズ、エスプレッソのある街よ」と言われ、「それ大麻か何か?」と聞く世間知らずの専業主婦で、生まれて初めて家具製造会社に勤めに出る。

絵を描くのが好きな彼女は、日曜画家として公園で似顔絵を描き小銭を得ている時、近くで口巧みにパリの風景画を売っていたウォルターと知り合う。
怪しげな男だが、裁判で娘の養育権を前夫に取られる惧れも出てきて、二人はトントン拍子で結婚することになる。美しいハワイでの結婚式。

ウォルターは、妻が描いた“哀しげな大きな黒目の少女”の絵を抽象画の画廊やジャズ・バーに持込もうとし、何とかジャズ・バーのトイレの前に掲げる事を許される。人目を惹かなかったが、バーのオーナーとの取っ組み合いの喧嘩が新聞スキャンダルとなったことより、人々の注目を集めるようになる。

ここからウォルターは、プロデューサーとして八面六臂の活躍を見せる。タイプライターで有名なイタリア人セレブのオリぺッティ氏に絵を買い上げられたことを契機に、SF市長、ソ連大使、女優のジェーン・クロフォードに絵を贈呈し、それをマスコミに大々的に取り上げさせて評判をとり、ついには自分の画廊を開くに至る。
また500~5,000$の絵を10¢のポスターで大衆に売出し、成功を収める。

オリぺッティ氏に誰が書いたのかと聞かれ、ウォルターは一瞬、間をおいて自分だと答え、“大きな黒目の少女”は、以降ウォルター・キーン作となり、彼は名声を博し60年代の流行となる。
自分の絵を夫に奪われたマーガレットは、プール付の豪邸に恵まれて暮らすものの、娘にも描くところを隠すゴーストライター(ペインター??)の忍従の生活を強いられ、鬱々と満たされない。スーパーに売られている自分の絵のポストカードを観るに至り、心の変調を来す。

1964年、NY万博のユニセフ教育館に大作を描いて掲示する企てが失敗して、夫婦仲は決裂する。マーガレットは、夫から逃れハワイに娘と移住し自分らしさを取り戻す。
彼女は、エホバの証人の『嘘をつくな、真実を語れ、盗人は悔い改めよ』に励まされ、ラジオ番組で嘘を告白し、ウォルターと新聞社を訴える。慰謝料1700万$
前代未聞の裁判が開かれ、真実が明らかとなっていく。

◆◇不思議な絵◇◆
キーンの絵は、大きな眼が悲しみ湛え、隠された毒もある様子で、最初観るとハッとさせられる。しかし、同じパターンの絵が次から次に現れると、芸術なのかデザインなのか違和感に襲われるのも確かである。
脇役の中で一番存在感があったのが、テレンス・スタンプ演ずるNYタイムスの評論家で、彼はキーンの絵を“infinite kitsch”と言い放って否定する。
この言葉は、『陳腐だ』と訳されていたが、自分なりに解釈するとケバケバしさを売りにした異様なもの、異文化的な香りがするものを指している感じがする。同じ型が次々に出て来るロシア人形のマトリョーシカに似ている気もする。
『キーンが成し遂げた事は素晴らしいと思う。万人に愛されたのは、表現力があるからだ。』とA・ウォーホールが語っている様に、ポップ・アートの先駆けとなっている。

◆◇画家になるには◇◆
版画家の池田満寿夫氏は、『現在日本には、絵を描き、展覧会や個展などで発表している人は、およそ10万はいるだろう…。マーケットで多少とも値段がつき画商が扱っている画家は、300人ぐらい。本当に愛好家の間で人気があり流通しているのは50人』と述べている。(「美の値段」)
素人の画家が売れるようになるには、良きパートナー(画商、プロデューサー、プロモーター)が必要である。
マーガレットとウォルターの関係も創作者とプロデューサーの補完関係にあり、ウォルターが居なかったら彼女がこれほど売れる画家にはならなかったと思う。
その意味で、彼女も夫を利用したような所もあり、一方的に悪と断罪出来ないなと感じた。
しかし、嘘は隠せるものではなく、得た名声に反比例して社会から断罪され、代償は重いものとなっている。

バートン監督の作り上げた映像は、絵の様に美しい。ハワイの空や海岸をこれ程美しく捉えたものはこれまで無い様に思う。ここを観るだけでも幸せ。

◆◇俳優たち◇◆
脇役のキャラを濃く見せる演出がなかなか良い。親友のクリステン・リッター、新聞コラムニストのダニー・ヒューストン、バー・オーナーのジョン・ボルトと夫々個性的である。でもピカ一は、名優テレンス・スタンプの存在感ですね。

また主役の二人も好演である。
ウォルター役のクリストフ・ヴァルツは、自分の罪に気付かない(気付かないふりをしているのか)口八丁の社交的人間を演じている。胡散臭くて芸術家に見えないところが良い。裁判所で被告と弁護士(観ていたTVのペリー・メイスンの物真似)の一人二役となり、怪しげでコミカルな演技を繰り広げる所は爆笑モノ。
マーガレット役のエイミー・アダムスは、何故このような絵を描くかという理由は腑に落ちなかったが、歳を重ねるに連れ老けていく様子や当惑した表情が良かった。


人は、絵を観ながら、その奥の作者の事を考えているのだと改めて感じた次第である。
絵の好きな方には、お勧めの映画ですよ。


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映画、クラシック音楽、料理、ゴルフが好きな中高年男です。 家猫1匹、外ネコ3匹に遊んでもらっています。

ボクダノビッチ

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