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映画「25年目の弦楽四重奏」(2013)

25年目の弦楽四重奏

芸術への献身と人間の猥雑さ


ベートーヴェンは、生涯に16の弦楽四重奏曲を作曲した。彼の深い思索が刻まれた重厚な作品群だが、後期の第14番嬰ハ短調作品131は彼の人生を振り返るような味わい深い傑作である。この演奏を主題にした映画である。
弦楽四重奏団のあり方や喜劇的ドタバタを呈する演奏者4人の人間模様にも焦点を合わせてあり、クラシック音楽好きには大変面白かった。


舞台は現代アメリカ ニューヨーク。男3名、女1名からなる名声を確立したフーガ弦楽四重奏団は、設立25年周年を迎え、ベートーヴェンの作品131を記念演奏会に掛けようとする。

4人のメンバーは以下の通り。
第一ヴァイオリン:ダニエル(マーク・イヴァニール)
         沈着冷静なリーダー。弓の馬毛に拘る自作オタク
第二ヴァイオリン:ロバート(フィリップ・シーモア・ホフマン)
         軽妙なおどけた感じ。サポート役に満足だった
         が…
ヴィオラ    :ジュリエット(キャサリン・キーナー)
         ピーター夫婦の養女。一途にSQ演奏に励む。
         ロバートと長年夫婦である
チェロ     :ピーター(クリストファー・ウォーケン)
         カルテット創設者。年長で重きをなしている。

ピーターは、昨年最愛の妻を亡くし1年の休養の後、演奏活動を再開しようとするが、初期のパーキンソン病と診断される。アドレナリンが減り、体の動きが小さくなっていく病気で、満足な演奏が出来ないことから、フーガを引退し、後任にニナを推すとメンバーに表明する。

これを契機に、これまで纏まっていたメンバー間にギクシャク・確執とトラブルが生じメンバーの過去も浮かび上がってくる。
ロバートは、暗譜での自発的な演奏で価値あるリスクを取ろうと提案し、次に第一と第二Vnを交替で演奏する事を主張する。しかし、「楽譜の書込みは思想だ」、「積み上げてきた音色を変える」とダニエルに拒否される。
ロバートは、本当は現代音楽の作曲、演奏に進みたかったのだが、結婚・長女の誕生で流されてきたと嘆く。彼は、ゴタゴタの最中、ジョキング仲間のダンサーと浮気をし、妻ジュリエットと亀裂を生じさせる。

夫婦には一人娘でVnを学ぶ学生のアレクサンドラ(イモージェン・プーツ)がいるのだが、第一Vn奏者ダニエルの個人レッスンを受けるうち、二人は恋仲になってしまう。激怒する母親に年7ヶ月も家を空ける不幸な演奏家の娘だったと反撥する娘、一方 愛していると告げるダニエルに殴りかかるロバート。コケティシュな娘は4人を喰っています。

混乱の中、ピーターは薬が効いて演奏が出来そうだとなり、4人の練習が再開される。果たして上手くいくのかと観客に思わせメトロポリタン・ミュージアムでの記念演奏会となる。

映画を観て印象的だったのは
◆◇登場人物のキャラが際立っている◇◆
カルテットの4人とも演奏シーンは、本当に弦楽器を弾いているようで感心した。
また静かな演技で大きなドラマが生まれていることに感心した。あわせて弦楽四重奏の魅力も語られる。

クリストファー・ウォーケンは、「ディア・ハンター」や「スリーピー・ホロー」の騎士役等、特異な顔立ちで強烈な印象を残していたが、ここでは病気で茫然自失し、衰え行くことを自覚した役である。薬を飲む時、呆けたような表情を見せる抑えた演技が印象的である。

フィリップ・シーモア・ホフマンも好演である。公演の調整を担い、「第一Vnと第二は順位ではなく役割が違う。ソロで流れる第一Vn、水面下で豊かに流れるビオラやチェロ 両者を繋げるのが第二Vnの役割だ」とサポート役を担ってきたが、浮気嬢からのささやきで変貌して行く。柔らかな表情が他3人と違う個性を引き立てている。

第一Vnのマーク・イヴァニールは良く知らなかったが、静かな知的な演技で引きつけられた。ソロにならなかった訳を「ソロイストの場合、オケと2~4回リハーサルをする。演奏は1,2回で終わり。次の町、指揮者、オーケストラと変わっていくだけ。一方、この四重奏の演奏は3000回になる。偉大な作曲家が表現しようとした深い思いや様々な感情、魂を探るには弦楽四重奏が一番なんだ」と告白する。

娘が四人の演奏を評して、
「第一Vnは、冷酷なまでに完璧な演奏で客を魅了する。第二Vnが色彩、質感、リズムを与え、決して前に出ない。ビオラは音に深みを与え、悲しみ、魂の叫びを表現する。そして心の大きなチェロが完璧に四角を支え、安全が守られ4人の激情がほとばしる」と語る。作者の弦楽四重奏への深い洞察が出た表現である。

また、集団とソロの演奏も比べて語っている。
「チームでの演奏は、ソロに比べて苦しみが減ると思っていたが、仕事は増え、常に他の3人がいて、自分の才能を吟味され、欠点を全て知らされ、自尊心が傷つく。それが現実だ。」


ベートーヴェンの弦楽四重奏曲は、初期(1~6番)、中期(7~11番)、後期(12~16番)に分けられる。中期までは4楽章仕立てで、第二楽章に多く用いられているアダージョの深い瞑想的な響きが個人的には大好きである。
後期作品は一聴しただけでは難解であると思う。でも深夜独りで繰り返し聴いていると、精妙な音の中に、作曲家の深い祈りが浮かび上がって来る気がする。

作品131は7楽章仕立てと破格の構成で、全楽章attaccaで演奏する。楽章毎に休止せず続けて演奏すること。じっと聴いていると、どこに連れて行かれるのか予測がつかない位、新しい試みに溢れている。6楽章のほの暗い悲しみを湛えた演奏の後、7楽章の躍動感に満ちた音に囲まれると、自分でも胸が一杯になる。交響曲第三番「英雄」に見られる人生への意志の力を強く感じるのである。

映画はピーターの引退表明と後継者ニナへの引き継ぎ場面を、この楽章からの演奏で起こしており感動的である。ダニエルが楽譜を閉じ皆が従って演奏が再開され、この楽団が続いていくことが暗示される。


DVDを2回観たのだが、冬のNYを背景に緊張をはらんだ静かなドラマが展開されるのには感心した。一方、男女関係の表現は、俗っぽくやりすぎな気もした。
ヤーロン・ジルバーマン監督は、これが2作目だそうだが、オリジナル脚本で、この分野に造詣が深い人なのだろう。曲想とも合っており秀作だと思う。


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映画、クラシック音楽、料理、ゴルフが好きな中高年男です。 家猫1匹、外ネコ3匹に遊んでもらっています。

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