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映画「愚か者の船」(1965)

愚か者の船

単調さが気になったが、シニカルな味わいの群像劇


採点 ★★★☆☆

 中学二年の秋に予告編を観て永らく観たいと願っていた作品でDVDを購入して鑑賞。大女優ヴィヴィアン・リーが出た最後の作品でとても興味深かった。

 1933年、メキシコのベラクルスからドイツのブレーマーハーフェンに向かうドイツ客船に乗り合わせた人々の28日間の船旅の人間模様を描いている。グランドホテル形式の群像劇だが、10人以上の登場人物の描写が陰影濃く描かれ印象に残る。

 冒頭、狂言回しの役で葉巻を愛好する背広を着た小人の紳士グロッケン(マイケル・ダン)がこの船を愚か者の船と名付ける。初めは異形の人ということで目を引いたが、知的な会話で徐々に普通の人に見えてきたのは不思議な感じがした。この人はアメリカで有名な役者さんだそうだ。

 客船ベラ号の船長ティールは、船医ウィリー・シューマン(マイケル・ウィナー)が重い心臓病で、この旅を最後に船を去ることを寂しく思う。
導入部の昼食会で登場人物の多くを、流れるように見せていく演出と撮影は素晴らしい。
主要な登場人物は以下の通り。
①リーバー(ホセ・フェラー): 出版社オーナーでナチス信奉者で反ユダヤ主義を公言。大声でしゃべり、歌う怪演で憎めない感じもする。
②フッテン夫妻: 物静かな大学教授。ブルドックの愛犬を連れている。
③フライターク氏: メキシコの子会社から帰国中。
④シュミット婦人: 穏やかな老婦人
⑤メアリー・トレッドウェル(ヴィヴィアン・リー): 46歳、外交官の夫と離婚。辛辣な発言をするが、満たされない気持ちを抱いている。
⑥ビル・テニー(リー・マーヴィン): メキシコで解雇された野球選手。外角のカーブが打てなかった事を気に病んでいる。船内の女を物色する粗野な男。
⑦ローウェンタール氏: ユダヤ人の温厚な宝石商。
⑧グラフ氏と甥のヨハン: 神の慈悲を説く狂信的な元哲学教師、車いすを甥に押してもらっている。
⑨ジェニー(エリザベス・アシュレー)とデヴィッド(ジョージ・シーガル): 愛情に不安を持ちギクシャクしている画家のカップル。

 途中、キューバでサトウキビ畑の季節労働者600人と政治犯で逮捕、輸送される伯爵夫人(シモーヌ・シニョレ)を乗せる。
この船は、豪華客船ではなく一等、二等と別れた二級客船なのである。
不眠で苦しむ伯爵夫人と船医シューマンが、お互いに同情し心惹かれていく悲恋が物語の一つの柱となっている。

物語は淡々と進むが、労働者の暴動、ペペ一座のフラメンコ・ダンスショーと変化を持たせ、後半大きな人間ドラマが生まれ、目的港に到着する。

 二つの恋愛模様には心を惹かれなかったが、この作品で感心したのは以下の点である。
①暗い時代の幕開けを冷徹に描いている。
1933年というのは、ヒットラーが政権を取った年で、リーバ氏は公然と反ユダヤ主義、優生思想を声高に語る。『ドイツの災難はユダヤ人だ』と同じテーブルにユダヤ人が着かない様に差別する。
一方、ユダヤ人のローウェンタール氏は、私は鉄十字勲章も貰ったし、『少しの忍耐と少しの理解で世界は住みやすくなる』、『ドイツにはユダヤ人は100万人も住んでいる。どうにか出来るものではない』、『べートーヴェンやゲーテを生んだ国を軽く見るな』と楽観的に見過ごそうとする。
ユダヤ人の妻を持つ男とばらされたフライターク氏は、テーブルを移され、激高して非難するが他の客は黙認する。

リー・マーヴィンとヴィヴィアン・リーの会話
『アメリカでは15歳までユダヤ人など知らなかった』、『黒人をリンチするのに忙しかったんでしょう』とリー・マーヴィンは皮肉を言われ唖然とする。
メキシコ人、スペイン人、ジプシー等への人種差別もあからさまで、愛犬を救った男が溺れ死んでも同情しない場面が出てくる。

 最後に船がブレーマーハーフェン港に到着し、軍楽隊がマーチを演奏する中、乗客が順次降りてくる。
ローウェンタール氏は、奥さんと二人の娘さんとの再会を喜び、ユダヤ人に理解を示した穏やかなシュミット婦人には、ナチス突撃隊SAの制服を着た息子が明るく出迎える。
その後の悲惨な歴史を知ってる我々には、彼らの運命を思いやると大変ショッキングであった。
歴史にIF は無いが、差別や偏見に対しては、小さなことでも異を唱え続けることが大切だと考えさせられた。


②ヴィヴィアン・リーの演技
 ある夜、酒を飲み孤独を感じた彼女は、一人になって突然チャールストンを踊りだしたり、フラメンコダンサーを模したけばい化粧を始める。そこへ酔ったリー・マーヴィンがダンサーの部屋と騙され闖入する。無理やりキスをし犯そうとする彼に初めは抵抗するが、彼女か受け入れようとしたとき、リー・マーヴィンは『なんだ、あんたか』と人違いに気付き、冷めて言い放つ。
彼女は、侮辱に我を忘れて、『出て行け』とハイヒールの踵で彼の顔を殴り続ける。
この異様な光景は、彼女の鬼気迫る演技で忘れがたい印象を残す。

ヴィヴィアン・リーは、50歳の時に演じたこの作品が遺作となったが、伝記を読むと舞台に執念を燃やした根っからの演劇人であったことがわかる。
可憐で痛々しさを感じさせる大女優であった。

ところで彼女はジャラ声だったのですね。本作を観て気付きました。


 2時間29分の白黒映画でやや長すぎると感じるところもあったが、『この船は愚かで無意味な人生でいっぱいだ』とのシニカルな主題も良く描かれ退屈はしなかった。
また社会派のスタンリー・クレーマー監督らしく、人種差別が生まれてくる世相を切り取っているところにも感心した。
観て損はない作品ですよ。


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映画、クラシック音楽、料理、ゴルフが好きな中高年男です。 家猫1匹、外ネコ3匹に遊んでもらっています。

ボクダノビッチ

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