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映画「ザ・デッド/ダブリン市民より」(1987年)

ザ・デッド


ゾンビ映画じゃないよ。文芸作品だよ。

ジョン・ヒューストン監督の白鳥の歌とも言うべき遺作である。
白鳥の歌とは、白鳥が死ぬまぎわにうたうという伝説から来ている。その時の声が最も美しいという言い伝えから、最後に作った詩歌や曲、生前最後の演奏など、その人の最後の掛け替えのない作品を指すが、これに相応しいと思う。

81歳のジョン・ヒューストン監督(1906-1987)は、自分の祖父の故郷、アイルランド ダブリンを大変慈しみ、敬意を持って、この静謐な映画を撮っている。
祖先の人々の豊かな営みを暖かな眼で見つめており、当時のダブリンの冬景色の描写も素晴らしく、静かにジワッと良さが胸に広がってくる。

1904年のダブリン、雪が舞うクリスマスに高齢のジュリア、ケイト・モーガン姉妹、姪のメアリーの家に親戚が馬車で集まってくる。一同は、久しぶりの会話やダンス、ピアノ演奏、詩の朗読を楽しみ、ディナーも七面鳥の代わりにガチョウを、デザートにブラウン・プディングを堪能する。
客は、グレダとガブリエル・コンロイ夫妻、酒癖の悪さから禁酒を命じられているフレディと老母、歌手ダーシィ、反英活動家のアイヴァース女史、等々の多士済々が織り成すアンサンブル映画である。

個々のエピソードは、微笑ましく、男共が敬遠するメアリーのピアノ演奏、気まずい雰囲気となった詩の朗読、昔聖歌隊から外されたケイトの不満等と続く。
化石のように思えた高齢のジュリアが「婚礼の歌」を披露するシーンは、決して上手くは無いが、急に生き生きとした表情になって良かった。これに過度にお世辞を言うフレディ。
フレディの酔っ払いぶりと弱々しい道化ぶりは出色で、こんな困った人は、確かに周りにもいるナァと感じさせる。

新聞に記事を書いている紳士のガブリエルは、謝辞の挨拶を気にしていたが、食事の終わりに客を代表して、主催の三人の女性を三女神と呼び、ダブリンに伝わるもてなしの心を賞賛し、彼女らへの敬愛の心を伝える。

舞踏会、晩餐会と続き、何ら派手なドラマは起こらないが、登場人物が皆、演技が達者で、映画に引き込んでいく力量には感心した。100年前の生活だが、今と比べて何と豊かだろうと感じさせられる。

晩餐会の会話では、ダブリンのオペラ観劇での歌手の出来、不出来の話で、ラ・ボエームの「冷たき手を」やベルディの話題が出てきて興味を引いた。
また 食べた後の骨を二人で折って、願い事の骨として占うシーンなど珍しかった。

映画の最後に、アイルランド民謡「オーリムの乙女」(The Lass of Aughrim)がテノールで聴こえてくる。放心して聴き入るグレダ。グレダの悲しい恋の過去が、ガブリエルに告白される。
ガブリエルは、虚しさを感じ、生者もいずれ死者に変わって行くという諦観を、雪の降り積むダブリンを背景に語る。
ヒューストン監督晩年の「雪が平等に降り積むように、死者と生者を分け隔てるものは、何も無く、愛した者たちは死者の記憶として残る」という感慨に重ね合わせてあるようだ。

この映画は、淡々と物語が進んで、あっけなく終る印象がある。特に最後は、物語が急転直下変わって、大きなドラマになる場面だが、滔々と流れる大河のように終る。
しかし、何かしら心に残る所があり、二度目に観ると、大きく包み込んでくれるような暖かさと深い味わいに気付かされる。

音楽は、アレックス・ノース。冒頭ハープによる「オーリムの乙女」は繊細な印象を残す。
最後に聞こえて来るのは、アイルランドの黄金のテナーと呼ばれたフランク・パターソンによる歌声である。

映画は、ジェームス・ジョイスの原作をかなり忠実に描いており、ヒューストン監督は酸素マスクをしながらメガホンを取り、文字通り心血を注いだ作品となっている。
ヒューストン監督のこれまでの男っぽい作風と違うと感じるが、彼の知性の高さとアイルランドへ寄せる愛情が、作り上げた作品だと思う。

ケイト・モーガン  :ヘレナ・キャロル
ジュリア・モーガン :キャスリーン・ディレーニー
グレダ・コンロイ  :アンジェリカ・ヒューストン
ガブリエル・コンロイ:ドナルド・マッキャン
フリディ      :ドナル・ドネリー

theme : 映画感想
genre : 映画

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映画、クラシック音楽、料理、ゴルフが好きな中高年男です。 家猫1匹、外ネコ3匹に遊んでもらっています。

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