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映画「海と毒薬」(昭和61年)

海と毒薬


遠藤周作の原作を、社会派の熊井啓監督が映画化した。
戦争末期に起こった九州帝国大学の米軍捕虜の生体解剖事件というショッキングな題材を扱っており、日本人と西洋人の思考の違い、人間の罪と罰という重いテーマを突き付けている。

私は、福岡市に長らく住んでいたので、この事件は地元新聞にも載ったし、近親者がおぞましい事件として、ヒソヒソ話をするのを聞いた事もある。
世間の尊敬を一身に集め、人の命を救う職務の帝大医学部教授が恐ろしい事件に係わっていたという事も衝撃的である。

映画は、昭和20年5月頃、米軍の爆撃も激しくなって来る中、大学の第一外科に勤める二人の若者、医学研究生の眼で語られる。勝呂(奥田瑛二)は、初めに担当した患者オバハンの面倒を親身に診て優しいが、上の人には言いたい事も言えない気の弱い所がある。戸田(渡辺謙)は野心家だが、虚無的で無感動な自分が解らなくなっている。

第一外科は橋本教授(田村高廣)、柴田助教授(成田三樹夫)、浅井助手(西田健)、大場看護婦長(岸田今日子)らから成り、第二外科の権藤教授(神山繁)と医学部長の座を争っている。教授達は「白い巨塔」のような医学界の権力争いを軍部の力をバックに行い、部下達は先の無い患者を「どうせ捨てる」と呼び、学術材料にして昇進を目論んでいる。
橋本教授は、肺結核の田部夫人の簡単に思えた手術に失敗して死なせ、動揺して西部軍の「米軍捕虜の生体解剖」の要請を受け入れる。両肺をどれだけ削除すれば、死亡するかという恐ろしい実験である。戸田、勝呂もこの手術に麻酔係として参加する。

橋本教授にはドイツ人妻ヒルダがおり、何も知らずに颯爽と胸を張って病棟にボランティアに来る。一般病棟で苦しむ患者に医師の処方通り、危険量のオピを注射しようとした上田看護婦(根岸季衣)を遮り「あなたは神が怖くないのですか」と非難するヒルダ。彼女の西洋的な振る舞いが、病室の皆に違和感をかもし出す。

手術のシーン。若き米軍捕虜を麻酔のため必死で押さえつける4人。恐ろしさが伝わってくる。手術室の床に水が流れ、血のガーゼが投げ込まれ、汗ばむ中での手術。静的な白黒の画面は緊張感を生んでいる。

勝呂は、恐ろしさに立ちすくみ、何も出来ないでいる。手術後、ドアの外に転げるように出て、廊下に響く赤ん坊の声。生と死の鮮やかな対比が示される。

戸田は、手術に参加し、生々しい恐怖に襲われる自分を期待したが、平然としている無感動な自分に驚く。
「みんな死んでゆく時代やぜ。病院で死なんやつは毎晩、空襲で死ぬんや。」とつぶやき、時代や軍部のせいだと何とか自分を正当化しようとする。
勝呂に比べ、一見強そうに見えた戸田も根っこのところでは、全体の流れに流されていく日本人特有の考え方である。

日本人は集団でものを考え、ヒルダに代表される西洋人は神と個人の関係で、最終的に個人で意思決定をする。集団でものを考えるから、集団の利益が優先され、個人の倫理観や善悪の判断は後回しになる。こう考えたが、ステレオ・タイプ過ぎるだろうか。
生体解剖についても、関係者は「医学の進歩のため」、「どうせ銃殺される命だから」と尤もらしい理由を付け、無理に自分達を納得させようとしている。

こういった事態が自分にも降りかかった時、毅然とした態度が取れるのか、甚だ心許ない。でも批判的に見れる自分が居るというのは、強みになると思う。

「俺たちどげんなるとやろか」罪の重さを考え、漠然と罰を思う勝呂。「他人の眼か?社会の非難か?」戸田は一瞬反駁するが、答えは無い。彼らが一生背負ってゆく十字架を思ってしまった。

映画では、荒れ狂い波打つ海、穏やかな海、海の色んな表情が出て来る。黒い海に流されていく無力な小さな人間を暗示しているようだ。
孤独な勝呂は、晴れた日に海をみつめて、平穏な未来を想い、次の詩を歌う。

  羊の雲の過ぎる時
  蒸気の雲が飛ぶ毎に
  空よ!お前が散らすのは
  白い しいろい わたの列
  空よ!お前が散らすのは
  白い しいろい わたの列
  ‥‥
詩人立原道造の「雲の祭日」の詩の一節である。

音楽は松村禎三が印象的な曲を書いている。マリンバ、打楽器、弦楽器などで不協和音を響かせ、ドラマの緊迫感を高めている。また二人の医学生が海を見つめ、内省的なシーンでは、ピアノが細やかに響いてくる。演奏は野島稔である。
また当時の歌謡曲、軍歌も印象的に使われている。ヒルダが登場する場面では、明るくベートーヴェンの交響曲第6番「田園」が流れ、橋本教授がおぞましい手術をするシーンでは、ヒルダと娘のソプラノの美しい歌声(讃美歌かしら)が窓の外から響きわたり、ハットさせられる。
映画の中では無音のシーンの方が多く、音楽は抑制的だが、大変効果的に使われており、印象が深い。

熊井啓監督の作品は、「地の群れ」、「忍ぶ川」、「日本の黒い夏」、「暗い河」と作る度に関心を持って観ており、誠実さを強く感じていた。この作品の頃より映画に透明感を感じるようになった。ウェットな抒情とかでなく、静かなサラリと突き抜けるものである。

この作品は、テーマの重さが圧倒的で、答えは無いのだけれど、いつまでも心に残る作品である。

theme : 映画感想
genre : 映画

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映画、クラシック音楽、料理、ゴルフが好きな中高年男です。 家猫1匹、外ネコ3匹に遊んでもらっています。

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