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書評「回想の芥川・直木賞」永井龍男著 (文藝春秋 昭和53年)

芥川賞001



永井龍男(1904-1990)は、短編小説の名手で市井の哀感を巧に描いた小説家、随筆家として知られている。文藝春秋社に就職した事もあり、昭和10年から53年まで芥川・直木賞の創設、選考の事務局、後半は選考委員として、携わっており、本書は2つの賞の選考の様子を第一回から40数年間、詳細に記した回顧録である。文字通り、昭和文学の生き字引のようで、読み出すと愛惜のこもった文人描写も多く、引き込まれてしまった。

川端康成、菊池寛、井上靖、三島由紀夫等の多彩な選考委員が登場し、彼らの的確な批評や選考会での様子が細やかに書き込まれており、長い時を経てみると、彼らが新しい小説を読んで、作者の将来性を見通す眼が確かである事を強く感じさせられた。 

読んでみて、長い歴史のある芥川賞で2つの出来事が大きく問題となっていた事を知った。大江健三郎と村上龍の受賞である。

大江健三郎は、東大仏文科在学中の昭和32年下半期に「死者の奢り」で候補となり、一票差で開高健の「裸の王様」が受賞した。大江は鮮やかなデビューで既に認められた新人との妬んだ批判も多かったが、選評を読むと、清新な感銘を受け、熱心に支持する者もいた。
次回の昭和33年上半期に「飼育」で文句無く受賞したのだが、川端康成が熱の入った選評を書いており、印象が深い。

川端は「芥川龍之介のことがしきりに思い出された、二十三、四で学生上がりで、異常な才能と題材で、たちまち注目された作家は、これまで芥川賞にはいなかった」と高く買っており、「傷つきやすい、こわれやすい、人工的実験の若さだからと否定するには至らない」と強く推薦している。

大江健三郎の受賞感想も若々しく好ましいので、少し引用してみる。
「ぼくは日本散文の正統な美しさと力強さを信じていますが、フランス文学の教室で渡辺一夫教授をはじめとする先生たちと、優しい友人たちの中にいることを、最も幸福に感じるものでもあります。
そして、ぼくに対して終始、真摯な人間的態度を維持していただいた編集者たち。
これらの人々、善き人々の協力と、彼らへの連帯の感情なしには、ぼくはどんな仕事もできなかったでしょうし、今後も事情はおなじです。
ぼくはここで、かれらへの感謝をあきらかにしたいと考えます。そして、ぼくがその好意にこたえるためにとる責任をも、また。
夏休みがはじまったので、ぼくは冬にかけての長編の書きおろしをはじめます。」
やたらとひらがなが多く、外国語の翻訳文のようにも感じるが、逆に清新な印象を受ける。

村上龍は、昭和51年上半期に「限りなく透明に近いブルー」で芥川賞を受賞した。
受賞前から世評が高かったが、多くの選者を悩まし、長時間を要した選考となった。
作者の感受性や資質には並外れたものを感じるが、とらまえどころが無く、技巧的には稚拙な描写が多く、書くという点では水準以下の未熟さが目立つとの事である。文章修行を経ていない素人が書いた作品との批判。
井上靖が、技巧上の批判もあげながら、「作者の資質を感じさせる久々の作品だった」と将来性に期待する暖かな推薦の言葉を書いており、井上の感受性の柔軟さを伺わせた。

このような高名な賞の受賞は、作家のその後の人生にどのような影響を及ぼすのであろうか。精進する人もいれば、庄司薫「赤頭巾ちゃん気をつけて」(昭和44年)のように、その後、パッとしない人もおり、気になるところである。

映画の世界でも、米アカデミー賞の呪いといった若くしての受賞が、その重みに押し潰され、悲惨な人生となることもある。例えば、俳優リチャード・ドレイファスなど。

その後の大江健三郎、村上龍 両名の活躍は皆さんご承知の通りで、受賞は触媒として、小説家の成長を大いに促したと思う。

本書に引用された選者の評は、作品に真剣に向き合い、奥深く細やかに表現してあるものが多く、暖かな友情を感じさせることもあり、心の琴線に触れる感じがした。
文春文庫になっているようなので、皆さんにも一読を勧めたい。
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映画、クラシック音楽、料理、ゴルフが好きな中高年男です。 家猫1匹、外ネコ3匹に遊んでもらっています。

ボクダノビッチ

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