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NHK BSプレミアム「釣って、食べて、生きた! 作家 開高健の世界」(2011年)

開高健

「第一夜 巨大オヒョウを食らう~アラスカ・ベーリング海~」

大好きな作家 開高健(1930-1989)の辺境釣り紀行の放送がNHK-BS放送であり、懐かしくて観てしまった。

「海よ、巨大な怪物よ オーパ、オーパ! アラスカ編」(集英社1983)に詳しいが、開高氏がベーリング海で巨大オヒョウ釣りに挑み、30年を経て、当時料理人として同行した谷口博之氏がアラスカ沖のセント・ジョージ島を再訪して、当時の思い出を語るという番組である。
当時の写真や現地の人々の様子も交え、描いている。更に嬉しい事に谷口氏は30日間にわたる島での生活で当時の会話を録音しており、その膨大なカセットテープから開高先生の肉声が聞けるという思わぬ楽しみもあった。

冒頭、旅に出る動機が語られる。曰く「男が熱中するもの、それは危機と遊びである。負けが込んだジリジリした博打でも、事業でも男は情熱を傾けるものが有れば、活き活きと勤しむ。男は情熱的な生き物である。」
開高氏は、躁と鬱の振幅が大きい人ではなかったかと思う。一言一句書く事を疎かにしないというか、厳しく処する事を自分に課しており、書斎とベッドを往復する日常に倦むと、文明の果ての自然の中で自分を開放したいと強烈に夢想したのであろう。

オヒョウ(英名ハリバット)は、巨大ヒラメで大きい物は400kg、ダブルベットサイズのものもあるという。ベーリング海は、昆布が60cm/日も成長すると言われ、生物にとって豊穣な海なのである。
霧と氷雨と黒い雲に閉ざされた島で果敢にオヒョウ釣りに挑み、遂にバーンドア(納屋のドア)サイズの巨大オヒョウを釣り上げる事に成功する。
当日は悪天候で海も荒れ、漁師は漁に出る事を止めるよう忠告したが、小さなボートに乗って果敢に挑戦して成し遂げる。友人の1人が、彼のdetermination(決断力)の結果だとしみじみ語っていたが、危険を犯した人だけが得る美しい果実のようだ。

谷口氏は、辻静雄料理学校から派遣された当時29歳の若き料理人である。実直な人柄で、料理を通じて開高先生に尽くし、【谷口教授】という渾名を拝命する。
釣上げたオヒョウは、姿作りから、兜煮、他と想定されるあらゆる調理、何と34種類を試みたそうである。

開高氏は、料理が美味な時は、「いけるで!これはいける!!」と早いレスポンスで料理の味を評価し、逆に不味い時は、何も言わないか、「あかん、北新地にこんなスカスカのオバハンおるで!」とユーモアを交えて評する。料理人へ何より励ましとなったであろう。
意気投合した【谷口教授】に「心に通ずる道は胃を通る」との気の利いた箴言をエプロンに書いて贈っている。真心のこもった料理が一番との思いがジワッと伝わってきて中々良かった。
文字も、例の独特なカナ釘流マンガ文字で懐かしい。

同じ物を食べ尽くさずにはいられないという開高氏の貪欲な食への執着の姿も描かれている。400人前のオヒョウの刺身、蟹、雲丹等々と次々に平らげる様子が出てくる。
多感な少年時代、戦争で飢えに苦しみ、蒸かし芋を前にすると、肉親でさえ人が人を食らうのだと、人の内面の悲しさを見抜いている。食欲の根源的な圧倒的な力に捻じ伏せられ、食べる事がトラウマになっていたのであろう。

当時、交流した人々が出てくる。ガイドのトム・ルーター氏、日本語ペラペラで日本人に近いメンタリティを持っている、大男の大工インノ・レステンコ氏、村の取り纏め役で開高氏と親密な飲み友達になっている。
皆が言うのは、彼は偉ぶらずに同じ目線で相手の中に入って行き、祖先のことや鳥獣虫魚や村のことを暖かく知り尽くそうという姿勢である。
それにしても交流した人々に強烈な思い出を残し、懐かしがられるというのは、人間として大きなキャラクターを持っていたからだと思う。

彼の知性の利いた人懐っこいユーモラスな大阪弁を久しぶりに聞いて、多くの人の中に自然に入って行く術に今更ながら感嘆し、マダマダ開高健のいろんなものを見聞きしたいと思う。

80年代後半であったか、彼がTV番組で「現代は、もはや魚釣りの時代ではない。Catch & Release の時代だ」とカッコ良く宣言した事があり、当時 私も海釣りを熱心にやっており、釣りは、根源的に太昔の猟師の感覚ではないかと感じてたので、反発を覚えた事がある。
その後、地球環境保全活動が盛んになる連れ、彼の先見性は当を得ていたのカナと思いいたる。

何はともあれ、私にとっては、懐かしい人に再会した至福の1時間半で、彼の作品を猛烈に読み返したくなりました。
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プロフィール
映画、クラシック音楽、料理、ゴルフが好きな中高年男です。 家猫1匹、外ネコ3匹に遊んでもらっています。

ボクダノビッチ

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