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映画「アラバマ物語」(1962年)

アラバマ物語


リー・ハーパーの小説To kill a mockingbird の映画化である。

私がこの原作を知るきっかけになったのは、1998年にランダムハウス社が発表した「アメリカの一般読者が選んだ20世紀の小説ベスト100」に入っていたからである。確か5位くらいに入っており、ペーパーバックを買って辞書を熱心に引いて読んだ事がある。難しい単語が多くて、時間を要したが、瑞々しい味わい深い作品であった。映画の方は、それまで2回ほど観ており今回見直してみた。原作との対比で、この映画を語ってみたい。

1933年、大恐慌時のアラバマ州メイコムが舞台。弁護士のアティカス(クレゴリー・ペック)は、奥さんを亡くし幼い子供達ジェム(少年10歳)とスカウト(少女6歳)と穏かに暮している。気だるく暑い夏から秋にかけて起きた二つの事件を子供の眼を通して描いている。

夏休みに隣家にディルという少年(7歳)が滞在するようになる。彼は、ターザン映画を何回も観て、物語を多く読んでおり、子供達は仲良しになって、色々な遊びで過ごす。
子供達は、近所のラドレー家に閉じ込められているモンスター ブー・ラドレーを一目見ようと夢中になる。
ディルのモデルは奇行で有名な小説家トルーマン・カポーティ。幼い頃、リー・ハーパーの近所に住んでいて、後年『冷血』の現地調査を一緒に行なっている。

その頃、白人農夫ボブの娘が黒人の作男トム・ロビンソンに暴行されたと訴えが起こり、アティカスはトムの弁護を引き受ける。裁判が始まり、アティカスは、木目細かな尋問で徐々に真実を明らかにしてくる。緊迫した見応えのある場面である。
事件は、娘が黒人を誘惑した事に激怒した父親のDVによるもので、トムの無実が晴らされるかに思われたが、陪審員の表決は有罪。絶望し、逃亡を試みたトムは射殺される。
南部のプア・ホワイトのやるせなさと黒人への人種差別の根強さが強い印象を与える。

晩秋の10月31日、ハロウィーンの夜。学芸会の帰り道、ジェムとスカウトは暴漢に襲われるが、何者かが助けてくれた。救ってくれたのは、初めて見る近所のブー・ラドレーであった。心優しき青年ブーを若きロバート・デュバルが演じている。

大変静かな映画で見終わった後、じわっとした感動で胸を満たされた思いがする。
親子の情愛の深さ、正義感が強く人種差別や偏見を嫌う高潔な父親、加えてみずみずしい情感によるものであろう。
子供達は活き活きと自在に動き回り、当時47歳のクレゴリー・ペックも重厚で思慮深い理想の父親像を演じ、一世一代の名演技と思う。

原題は「モノマネツグミを殺すということ」で次のような意味が含まれている。
映画の中で、スカウトの同級生、貧しいウォルター・カニングハムを昼食に招き、銃の話となる。何歳から銃を持ったか等々。
父親のアティカスは、作物を荒らすbluejay(アオカケス)は、鉄砲で撃っても良いが、mockingbird(モノマネツグミ)は、美しい声で鳴くだけなので、撃ってはいけないと子供達に教え諭す。
物語で起こる黒人への人種差別や隣人に対する偏見に対し、簡単に銃で撃って殺してはいけないと静かに訴えている。

リベラル派の製作者アラン・J・パクラや監督ロバート・マリガンは、1950年代後半から60年代前半の公民権運動を背景に、この主題を強く訴えたいと願っていたのだろう。
アメリカの良心、家族のあり方、理想的な父親像は、アカデミー賞でも強く支持された。

一方、小説は、スカウトの視点で終始描かれ、家庭の中で善の世界だけしか知らない子供が、初めて世の中の悪の世界を知り、大人のように社会とどう折り合いを付けていくか、少しずつ教えられ考えながら成長していく姿を書き込んであり、こちらも深いものがある。

「他人の靴をはいて他人の見方で見てみなさい」と父親が子供たちに教えることが出てくる。他の人の立場にたって物事を考えなさいという事で良い話だなと思う。
9月、スカウトが小学校に入学した日、新任の女教師がスカウトに家での読み書きを禁じる。
スカウトが上手に出来る事に驚いた措置である。学校に行きたくないと訴えるスカウトに父親が世の中の人とうまくやっていく簡単なコツ、「妥協」という言葉を上手に教えるシーンがある。

幼い子供に抽象的な概念を教えることは思った以上に難しいが、ここでのアティカスは難しいことは難しいなりに子供に妥協せず教えており、素晴らしいと思う。

音楽は、エルマー・バーンスタインが作曲している。オープニングでスカウトが宝箱からクレヨンを取り出し、紙に塗って行くと映画タイトルが浮かび上がり、ピアノが静かにメロディーを奏でていくシーンは秀逸である。
映画の中でもピアノの他に小編成の弦と管楽器、フルート、アコーディオン、チェレスタ等が、平穏な場面では静かな曲を、緊迫したシーンで迫力ある曲を映画に寄り添って奏でており強く印象に残る。
本作品はアカデミー作曲賞にノミネートされ、またAFIアメリカ映画協会の映画音楽ベスト25の中で17位に選ばれている。

尚、アラバマ州は、西にミシシッピー州、東にアトランタ州、南東にフロリダ州に囲まれたデープサウスと呼ばれる米国南部の保守的な州である。暑い夏、レディは1日に3回もシャワーを浴びずにはおられない土地である。ここのモンローヴィルが舞台となっている。劇中ではメイコムと架空の名に変えられている。

また、mockingbirdは、米国南部に生息する鳥で美しい声で鳴き、テキサスの州鳥になっている。bluejayは、米北部の青い鳥でカナダ トロントの野球チーム(MBL)のチーム名としても有名である。

本作品は、白黒映画であるが、町並みや裁判所等のセットも優れており、深い陰影の撮影が生きて今観ても名作だと思う。
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映画、クラシック音楽、料理、ゴルフが好きな中高年男です。 家猫1匹、外ネコ3匹に遊んでもらっています。

ボクダノビッチ

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