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書評「どくとるマンボウ航海記」北杜夫著(中央公論社、昭和35年)

とくとるマンボウ航海記



このところ寒くなったり、暖かくなったり気候が一定しません。土曜日に行ったゴルフ場では、紅葉が赤と黄色に色付き青空の下、大変鮮やかでした。

2011年10月24日、作家の北杜夫さんが亡くなられた。インフルエンザ注射の翌日に腸閉塞を起こされたとの事、享年84歳。ご冥福をお祈りしたい。

大変好きな小説家だったので、愛惜の念がひとしおである。どくとるマンボウシリーズを愛読しており、家にある本を数えたら11冊もあった。
軽妙な語り口と明るいユーモアが独特の雰囲気をもたらし、上品な味わいがあったと思う。

彼について何か書きたいと思い、出世作の「どくとるマンボウ航海記」を読み直してみた。

1958年11月15日から59年4月30日まで水産庁漁業調査船「昭洋丸」600トンに船医として乗り込み、東京から欧州まで巡って帰って来る物語である。船医1人なので、精神科医にも係らず、内科、外科手術まで担当する事となり、ドタバタの様相を呈する。
訪ねた地は、シンガポール、インド洋、スエズ運河、アフリカ沖、リスボン、ハンブルク、アントワープ、ロッテルダム、パリ、アレキサンドリア、コロンボと様々である。
当時31歳、持ち前の旺盛な好奇心と若き感受性で訪問した地の様子を活き活きと伝えている。
昔、読んだ時は抱腹絶倒の物語との思い出が強かったが、今回読み始めてみると以外にも面白くない。むしろ清冽な抒情味や鳥魚類、書物の博覧強記ぶりが強く浮かび上がり、こちらの方で引き込まれてしまった。

空と太陽と海原と水平線しか眼に入らぬ退屈と思われる船旅を続けて行く中で、多くの表情を見せる海の様子を克明に描けている点には感心した。小説家らしい観察眼である。
また周りの人間や秋から冬にかけての港町の描写にも独特の味がある。

寄港地での上陸は唯一の息抜きで、同僚と夜な夜な酒場と女性を求めて彷徨い歩く様子には、マンボウ氏独特の躁の高揚感と鬱の侘しさが交互に現れる。それにしても飲兵衛のマンボウ氏は、ユーモラスで誠に愛すべきキャラクターである。

ドイツのハンブルクから1日列車でリューベックを訪問する場面がある。傾倒している大作家トーマス・マンの小説「ブッテンブローグ家」の舞台となった生家を見に行く。
家が見つからずにその家の前を2回も3回も右往左往するだけの話であるが、教訓や結論を何も述べずに、夕宵が迫る中、「トニオ・クレーゲル」の登場人物などを思い出しながら、じっと佇んでいる姿は哀愁を帯びていて良いなあと思う。
この本では、全般に著者は観察したままを記しており、結論等は極めて意図的に排除している姿勢がある。

出版から50年後の今、読み返してみて気付かされる事も幾つかあった。
シンガポールで物価が安いのに驚き、ダーウィンの友人が200年も前にこの地は、自由交易で、英国本国より物価が安いと書いていると披露している。TPP論争で喧々諤々の今、歴史のあるこういう国と太刀打ち出来るのかなと正直思う。
スエズ運河が全長160kmもあり、通り抜けるだけで十数時間も掛かるとは、今まで知らなかった。
最後のあたりで本の読み方に薀蓄を述べている。箱やカバーの類は直ぐ捨てて、必要ならページだけを切り取って役立てるのが良いと先人の例も引きながら書いているが、誠にそのとおりと思う。

亡くなれた時、作家の佐藤愛子さんが「彼の本質は詩人であった」と追悼の言葉を述べていたので、嬉しくわが意を得た気がした。本作にも詩的な青春の息吹を感じた。
2007年、日経新聞に「私の履歴書」を連載していたが、新しい内容は無いのだが、凡百の経済人のそれに比べて、自分のことを正直に語って客観的に自分を見つめられる人だったとの思いが強かった。

彼のシリアスな小説の方には、眼が向いていなかったが、これを機会に読んでみるのも良いかなと思っている。
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映画、クラシック音楽、料理、ゴルフが好きな中高年男です。 家猫1匹、外ネコ3匹に遊んでもらっています。

ボクダノビッチ

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