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映画「太陽に灼かれて」(1994年)

太陽にやかれて5


北朝鮮の金正日主席の死亡ニュースが流れ、三代目への後継が円滑に進むか注目を集めている。独裁国家の民衆は、窺い知れないほどの闇を抱えているように思う。
1930年代スターリン統治下のソ連を描いたロシア・フランス映画「太陽に灼かれて」(Burnt by the Sun)を思い出したので感想を書いてみたい。

題名の「太陽に灼かれて」とは、30年代ソ連で流行ったタンゴの名曲である。ポーランド人の詩に亡命ロシア人ペテルスブルスキが作曲し、その後ロシア語の歌に変わった。
映画の冒頭に歌われ、繰り返し出てくる。哀愁を帯びたノスタルジックな歌である。

「朱に染まった波の間から、
 偽りの太陽が昇り始める。
 その光の中で、お前は言う。
 もう愛しては、いないと
 私の心は、恐怖でこわばる
 でも痛みや苦しみはない
 朝の光の中で君は言う
 もうこれで終わり
 ケンカはやめよう
 こうなる運命なのだ」

全てを焼き尽くす太陽は、スターリン独裁制の暗喩となっている。

詩的で叙情的な美しい映画である。撮影ヴィレン・カルータ。
前半は静かなホームドラマ調、後半は大いなる悲劇と雰囲気が一転する。話を全く知らずに観た時は、この対比が大きいだけに、強い印象を受けた。無邪気で愛らしい幼子ナージャの姿が悲劇を引き立てている。

1936年夏、ソ連での一日の出来事である。ロシア革命の英雄コトフ大佐一家が芸術村の避暑地に寛いでいる所へ、昔親しくしていたディミトリが訪ねてくる。
大佐一家の他に親族や女中も一緒で、革命前のような西欧の豊かな生活が保たれており、ビックリする。薬好きの女中は、フランスの薬なども愛飲している。
屋敷の周りの白樺の林を抜けると、一面小麦の大田園地帯が広がっている。

主な登場人物は、コトフ大佐(ニキータ・ミハルコフ)、妻のマルーシャ(インゲボルガ・ダプコウナイテ)、5歳の娘ナージャとディミトリ(オルグ・メーシコフ)で、前半は淡々と穏やかに進む。
人々は、サウナ風呂、川遊び、ディミトリのピアノ演奏、タップダンス、サッカー等に楽しく興ずる。途中、戦車部隊の突然の進軍や民間防衛隊による毒ガス訓練、レーニン少年団の行進がアクセントのようにユーモラスに挿入される。
昔、ディミトリとマルーシャは恋仲であったが、革命で貴族であるディミトリは大佐の采配で国外へ派遣され、戻れないままになっていた。その後、マルーシャは大佐と結婚した。
ディミトリは、ナージャにおとぎ話をする中で自己の思いを静かに語る。全てを察して、取り乱すマルーシャ。大佐は真実を語り、マルーシャを慰める。
太陽を反射した光が屋敷内を照らして、時には鏡を壊して行く。この意味合いは何だろう。

後半、物語は一転し、秘密警察のディミトリが、コトフ大佐の連行命令を密かに大佐に告げる。革命の英雄は、一転1920年からドイツの、23年から日本のスパイ容疑が掛けられる。大佐は動揺し、革命への貢献やスターリンへの直通電話番号を示すが無駄である。

帰路、連行の車が止まり、一面の麦畑の中から巨大な真赤なソビエトの旗とスターリンの肖像画が気球に吊り上げられ徐々に出現するシーンが出てくる。
スターリンの圧倒的な権力を示す息を呑む場面である。この映画の白眉と思う。
続く大佐に振り下ろされる有無を言わさぬ暴力。

最後のシーンで、その後の一家3名の悲惨な運命がテロップで流れる。
36年8月コトフ大佐 銃殺刑、マルーシャ 10年の刑で服役中に死亡、56年11月名誉回復、ナージャ 逮捕、56年名誉回復、カザフスタンで音楽教師。

映画の背景は、スターリンの大粛清時代(Great Purge)である。
1930年代から50年代前半にかけて行われたスターリンによる大殺戮で700万人が命を落としたとされる。軍将校も30年代には9割が処刑され、密告と裏切りが横行し、恐怖と人間不信で生き残るのが過酷な時代である。
トム・ロブ・スミスのミステリー小説「チャイルド44」を読むと良い。国家保安省の敏腕捜査官が少年少女連続殺人鬼を追い詰める話だが、身内すら信用できるのか疑心暗鬼になるこの冷酷な時代が良く描写されている。
フルフチョフによるスターリン批判で彼の悪行は明るみになったが、分っていない闇も多いようだ。

ニキータ・ミハルコフ監督は、何故この映画を撮りたかったのであろうか。
彼は、1945年10月の戦後に生まれている。父は作家、母は詩人、兄は映画監督アンドレイ・コンチャロフスキーという芸術家一家に生まれ、恵まれた育ちのようだ。
記憶力の良かったスターリンは、猜疑心が強く、他人から受けた侮蔑は忘れず、そのような人に対して、革命遂行の妨げと言った名目で粛清を進めて行ったという。
このスターリンの悪夢は、今もロシア人に色あせず、喉に刺さった棘のように抜き難い思いを抱えさせているのだろう。だから、1991年ソビエトが連邦崩壊した後、撮らずにいられなかったのだと思う。
加えて、ミハルコフ監督は主役の4人をいとおしむように描いており、ロシアの人と大地に対する深い愛情も後押ししているのだろう。

ミハルコフ監督は全3部作の製作を目指しており、第二作「戦火のナージャ」(2010)では、コトフ、ナージャ、ディミトリの三者が、第二次大戦の独ソ戦争で翻弄される過酷な運命を描いている。こちらも後日書いてみたい。

音楽は、エドゥアルド・アルテミエフ作曲。チャイコフスキー、ラフマニノフを生んだ国らしく、男性、女性合唱を含む弦楽合奏の切れの良い極めて美しい曲で、エンドタイトルで大きく歌い上げられる。悲しく切ないメロディで心に残る良い曲だと思う。
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映画、クラシック音楽、料理、ゴルフが好きな中高年男です。 家猫1匹、外ネコ3匹に遊んでもらっています。

ボクダノビッチ

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