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映画「チャーリー」(1992年)

チャーリー

華々しい成功にもかかわらず、喪失感と哀しみが漂う


チャールズ・チャップリンの生涯を描いた伝記映画である。
原作の“My Autobiography”もかなり面白い。これだけ多くの事象や人を良く憶えているなと感心する位、詳しい。波乱に満ちた生涯が活き活きと描かれており、自分自身を客観的に見つめ、深い味わいに富んでいる名著である。英文学者中野好夫氏の名訳もあるので、一読されると良い。

映画は、ベルイマン映画で有名な名キャメラマン スヴィン・ニクヴェストの撮影で目が醒めるように美しい。ジョン・バリーの音楽も伸びやかな抒情があり耳に残る。ここでは弦楽器だけでなくホーン・セクションの豊かな響きを生かしている。

映画の冒頭、チャップリン(ロバート・ダウニーJr)が鏡の前で“小さな放浪者”(The Little Tramp)のメイキャップを落とすシーンが映される。哀しみを湛えた表情が何かしら印象的である。このトーンが通奏低音のように作品全体に静かに流れている。

「イギリスの喜劇役者で自殺した者は多い」と自伝で幾人もの例を挙げている。彼らは、人気絶頂でも転落する心配や舞台で観客が笑わなくなる事の怯えで、不安を絶えず抱え破滅した。チャップリンは、自分のことは述べていないのだが、深い思いがあるようだ。
この映画でも、人を笑わす事はしても自ら笑う事は無いというコメディアンの悲しい業のようなものが描けていれば、もっと深みが出たと思う。

映画は、晩年スイスに隠棲している老チャップリンに伝記作家(アンソニー・ホプキンス)がインタビューし、過去にフラッシュバックしていく構成をとる。

イギリス ロンドン時代のチャップリン。5歳の時、声が出なくなった母親の代役に急遽初
舞台に立ち喝采を浴びる姿が描かれる。母親ハンナ役のジュラルディン・チャップリンは、優しく繊細で壊れやすい性格を演じて、名演技である。彼女の祖母なので、格別な思いがあったのだろう。
12歳のチャップリンが、生活困窮で精神を病んだ母親を精神病院に1人で連れて行く下りは、一番胸が詰まる場面である。
何も知らずに本を読んだ時も思わず目頭が熱くなったが、これも大変冷静に描かれているためである。

コメディアンとしての第一歩は、兄シドニーの売込みで、当時、名声を馳せていたカルノー劇団へ加入が決まる事から始まる。彼が舞台の外で演じる道化役(1人芝居)は大変人気だったようだ。ショウビジネスの楽しさに目覚め、イギリスだけでなく、フランス、カナダ、アメリカへも公演している。ひょうきんなコメディの原型は、この頃から始まっている。

アメリカに渡ると、無声映画の大物監督マック・セネット(ダン・エイクロイド)に見出され、スクラプステック・コメディで水を得た魚のように活躍が始まる。
才能があれば、無名の新人にでも週給150$もの高給を払う新興の映画界の活況が描かれる。映画の世界に深く魅了され、兄シドニーをマネージャーに呼び寄せ、映画監督にも進出していく。当時のサイレント映画撮影の様子は楽しい。豆を食べるシーンを何回も撮り直して、女優がゲンナリする所など彼の完璧主義をサラリと描いている。
彼が生涯作った映画は80数作だが、20代で60数作を作っている。

女性関係が多くあり、4度の結婚、離婚を繰り返している。こちらの能力不足か、女優の見分けもはっきりしないからか、彼が求める女性像は印象が薄く、良く描かれていないと思う。

好事魔多しと言うか、円熟の絶頂時に大転落が彼を待ち受けている。
アメリカの自由主義を過信していたせいか、彼の反権威主義、反権力への姿勢が、フーバー長官との確執を生み、赤狩りの時代、隠し子スキャンダルを口実に、危険人物ということでアメリカ追放を受ける。「ライムライト」(1952年)の英国プレミア上映で旅行中のことである。
英国、第二の故郷アメリカからも拒絶された時の心境は、如何なものだったろうか。自由の女神を背景に船上で佇む姿は、哀切である。
その後の映画制作は「ニューヨークの王様」、「伯爵夫人」の二作と限られてしまった。

その他にも、アメリカ楽観主義を体現したダグラス・フェアバンクスとの交流(本当に仲が良かった)、芸術家同士で設立したユナイテッド・アーティスト社、大恐慌前に全ての株を売り払った才覚等のエピソードが出てくる。
自伝では、交流した文化人、政治家の人物像を鮮やかに語って、無類の面白さがある。

1972年、第44回アカデミー賞受賞式に招かれ、長年の功績で名誉賞を受ける。アメリカ映画界が贖罪の意を表し、全員がスタンディング・オベーションで迎える。
ここは、大変感動的なシーンで、チャップリンの映画が次々に映され、車椅子に乗った老人の彼(当時82歳)が涙ぐむところは、「キッド」の悲しい場面とも相俟ってジーンとさせられた。描かれてはいないが、彼の3分間スピーチも知りたいところである。

リチャード・アッテンボロー監督は、多くの出来事を盛り沢山に描いて、145分と冗長な印象となった。もう少し山場を想定し、絞った方が良かったと思う。
チャーリー役のロバート・ダウニーJrは、本人の生まれ代わりのように迫真の名演技で素晴らしい。細かな仕草を良く真似しており、運動神経も抜群なので感心した。

最後のテロップに、母親は、海が見える家で経験豊かな看護婦に世話され1928年に他界、兄シドニーは戦後引退して南仏に移住とある。
大金が入ってくると人の心も変わって来ることが多いが、彼が、終生母親と兄との絆を大切にし、仲違いもせず暖かく処遇してあげたのは、良かったと思う。本当に家族思いの人だと心が暖かくなった。

チャップリン作品は、個人的には「黄金狂時代」、「ライムライト」をスクリーンで観ているが、前時代の人、甘いヒューマニストという先入観で敬遠していた。20世紀最高の喜劇人をもう一度見直しても良いかなと思わせる一篇であった。
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まとめteみた.【映画「チャーリー」(1992年)】

華々しい成功にもかかわらず、喪失感と哀しみが漂うチャールズ・チャップリンの生涯を描いた伝記映画でこれだけ多くの事象や人を良く憶えているなと感心する位、詳しい。波乱に満ち...
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comment

Secret

No title

こんにちは☆


チャプリンの半生を垣間見るのも面白い作品ですが
私は、ロバート・ダウニーJRが、とても素晴らしかったと思います。

演技の底力を生かした役を
ロバートには期待しています。

ではでは☆

No title

yutake☆イヴ 様

コメント有難うございます。
チャップリンについては、未だ半分くらいしか知らないのではと気付かされました。もう少し観てみます。

ロバート・ダウニーJRは、私も大好きな役者です。
破滅型にならずに大成する事を期待しています。

これからも宜しく。

No title

こんにちはですm(_ _)m
私もこの間見ました♪♪

山場といえるシーンはあまりなく、途中眠たくなるところもありますが、良い雰囲気をもった映画だと思います。
ロバート・ダウニーJrの演技もサイコ~です!!

No title

黒紅茶様

訪問して頂き有難うございます。

私もこの映画は抑制の効いたタッチで良かったと思います。
チャップリン自伝を読むと、彼は映画製作中は、脚本から演技指導、演出、作曲について、絶えず考えていたようで、限界はあるかも知れませんが、他の人からの借り物でないところが凄いと思います。

これからも宜しくお願いします。
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映画、クラシック音楽、料理、ゴルフが好きな中高年男です。 家猫1匹、外ネコ3匹に遊んでもらっています。

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