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映画「遥か群集を離れて」(1967年)

遥か群集

ヒロインは幸せを掴めるのか? 美しいイギリス田園を舞台にした大河ドラマ


私は、ジュリー・クリスティのファンだったので、彼女が出演した「ドクトル・ジバコ」(1965)、「ダーリング」(1966)、「恋」(1971)などをリアルタイムで熱心に観ていた。彼女は、華やかで美しく、一途なところのある役柄が多かったと思う。本作だけは見逃していたので、先日NHK BS放送で観ることが出来、長年の願いが満たされ嬉しかった。
今観ても面白いところが多かったので、感想を書いてみたい。

文豪トマス・ハーディの長編小説をジョン・シュレジンガー監督が忠実に映画化した。70mmパナビジョン大作で、途中にintermission(休憩)が入って170分もある。(チト長い)
原題は“Far from the Madding Crowd” 都会の狂乱を離れた田園生活を指すのであろう。
ニコラス・ローグの撮影は、丘陵を俯瞰したり、上空から撮ったりしてカメラアングルを工夫し、今観てもイギリスの田園ロケが美しい。
昔、イングランドからスコットランド北までバスで移動した事があるが、その時見た風景と同じだなと思い起こした。同じ原作者の「テス」でポランスキー監督が描いた世界は、イギリスというよりフランスなど大陸の農村風景に似ていると思う。
監督、スタッフ、俳優と殆どイギリス人で構成していることも、本場らしさを醸し出している理由と思う。

イングランド南西部ウェセックス地方の田園地帯で美しい若き女農園主バスシーバ・エバーデン(ジュリー・クリスティ)と彼女を取り巻く3人の男たちの物語である。

農園を叔父の遺産として受け継いだ女主人公は、自分の気持ちをストレートに表し農場経営にも前向きである。一方、洞察力が足りずダメ男に惹かれ不幸にもなる。愛と幸せを懸命に求め、回り道をしながらも最後は身近な人への長年の愛情に気付き、幸せに至る。
女性が愛と富を得てハッピーエンドとなるシンデレラ・ストーリーで、観客はハラハラしながら、プレイボーイに翻弄される女主人公が、早く目覚める事を願うようになる。女性の願望を巧に取り込んだ物語だが、古めかしさを感じるところもある。

男性陣は、実直な羊飼いのガブリエール・オーク(アラン・ベイツ)、非社交的な隣の農園主ウィリアム・ボールドウッド(ピーター・フィンチ)、良からぬ評判のプレイボーイ フランク・トロイ伍長(テレンス・スタンプ)である。
バスシーバに恋心を抱くガブリエールとボールドウッドは、あくまでも控え目であり、女主人公が振り向いてくれるまで、ひたすら何年も待つ高貴な騎士道精神の持主に描かれる。

「結婚して」と冗談で出されたグリーティング・カードから夢中になった農園主ボールドウッドに対して、バスシーバは、はっきりと「あなたを愛していない、愛していないのに結婚するのは誠実でないので待って欲しい」と言い放つ。ピーター・フィンチは抑えた演技で存在感がある。

トロイ伍長は、サーベルの剣舞でバスシーバを夢中にさせ、結婚に至るが、農場経営には関心が無く、闘鶏のギャンブルにのめり込む。
バスシーバは、次第にトロイの愛情に疑心を抱くようになり、トロイの昔の恋人が亡くなって運び込まれた時、深夜、安置されたファニーの棺桶を必死で暴く。このシーンのジュリー・クリスティは鬼気迫るものがある。
トロイは、ファニーの死で自分を見つめ直し、深い悲しみを負って行方不明となる。

数年後、ボールドウッドの屋敷でバスシーバとの婚約を祝う盛大なパーティが開かれるところにトロイが現れ、悲劇が襲う。

「風と共に去りぬ」のラストに良く似ている。スカーレットがアシュレーを愛しているといいながら、最後の場面で本当に愛していたのはレット・バトラーだと気付くところである。
バスシーバを見守り深く愛していたのは、身近にいたガブリエールだと気付き一緒になる事を決意しハッピーエンドとなる。

主人公が回り道を経て最良の配偶者を得るという理想が描かれているのは、美しいとは思うが、今日の視点からは、やや退屈だ。

イギリス田園地帯の四季を、種蒔きから刈り取りまで詳細に描いて、雰囲気たっぷりである。原作者ハーディの田園生活への憧れが良く判る。また牧羊犬による羊の世話やダメ犬が羊を崖下に落とす様子、羊が腹を膨らませて倒れるシーン(bloatという。マメ科の植物を食べ過ぎて胃での醗酵が進み、膨らむ症状)など観ていて珍しかった。

音楽は、イギリス人作曲家リチャード・ロドニー・ベネットである。若い頃、ピエール・ブーレーズの下で現代音楽を学んだ経歴の人である。シュレジンガー監督と多くの作品で組んでおり、壮麗な「オリエント急行殺人事件」(1974)もこの人の作曲である。
ここでは、弦楽器、オーボエ、ハープ、フルートが鳴り渡る抒情的な美しい曲を提供して雰囲気を高めている。
またイギリス民謡も巧に使われている。使用人たちとの昼食でジュリー・クリスティがリコーダー伴奏で歌う‘Bushes and Briars’(しげみと茨)は、素人の歌ながらシミジミとした余韻があって良い。
この歌詞は以下の通り。身分が違う恋だろうか。若い娘の期待と不安を、茂みと茨を抜けた恋人がフト耳にする様子が描かれている。

Through bushes and through briars I lately took my way;
All for to hear the small birds sing and the lambs to skip and play.
I overheard my own true love, her voice it was so clear;
“Long time I have been waiting for coming of my dear .

Sometimes I am uneasy and troubled in my mind,
Sometimes I think I’ll go to my love and tell to him my mind.

And if I should go to my love, my love he will say nay,
If I show to him my boldness, he’ll ne’er love me again.”

イギリス民謡は、透明なひんやりした空気感が感じられ本当にいいですね。若い頃、この曲やBlack is The Color of My True Love’s Hair (私の恋人の黒髪)を聞いていていた事を思い出しました。

この映画の見所は、美しい19世紀イギリスの田園、農村の描写で、一方、欠けているものは、ラストに向って畳み掛けるようなドラマの緊迫感だと思います。
ハートウォーミングな物語、美しい描写を望む方には、お勧めの映画です。
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映画、クラシック音楽、料理、ゴルフが好きな中高年男です。 家猫1匹、外ネコ3匹に遊んでもらっています。

ボクダノビッチ

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