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映画 「忍ぶ川」 (昭和47年)

忍ぶ川

音楽が素晴らしい清冽な恋愛映画


「忍ぶ川」は、三浦哲郎の自伝的小説で昭和31年に芥川賞を受賞した。小説を読むと、書かずにはいられなかった作者の切実感が伝わって来て、書く事で新生したとの思いがする。
熊井啓監督は、長年映画化を望み、吐血、下血の病の中で執念を燃やして映画を完成させた。音楽、美術、録音、撮影が素晴らしく、日本映画の総力を挙げた恋愛映画の名作である。
私は、完成試写会でこの映画を観て感銘を受けたが、最近また観る機会があり、新たに気付いた点を含めて感想を書いてみたい。

この映画は、主人公哲郎が志乃という女性に出会うことにより救済され、抱いていた死にまつわるコンプレックスを消し去って、転生し新たな人生へ向う事を鮮やかに描いている。

私学生の哲郎(加藤剛)は、姉達の自殺と兄達の失踪が原因で、家族の“呪われた血”と家の“恥の意識”に囚われ宿命的なものを感じている。彼にとって死とは、突然死体となって出現するもので、自然に滅び行くものではないという想念に捉われ、自分もそのような運命に引き込まれることを懼れている。

哲郎が、割烹「忍ぶ川」の女中 志乃(栗原小巻)と出会って物語は展開していく。
夏、東京の深川、州崎をデートする中で、志乃は「自分は遊郭の射的屋の娘であった」と貧しさ、育ちの卑しさを素直に明かす。
その夜、哲郎は、卑屈だった自分を恥じて志乃に手紙を書く。兄弟の自殺と出奔、家への恥の意識、家族や自分に流れている暗い血を思うと、生きている事が堪らなく恥ずかしく、誕生日を祝ってもらった事は無いと。
志乃から「今度の誕生日は、私に祝わせて下さい。」と返事があった。

哲郎は、志乃に惹かれ、彼女の婚約を破棄させる。映画は、哲郎の心情を吐露するように、無声映画みたいに画面一面にセリフが出たり、ナレーションを挟んで進む。
秋、志乃の父の容態が急変し、哲郎は志乃の「来て下さい」という手紙をみて、栃木へ駆けつける。家はうち捨てられたお堂の中であった。「私の人を見て」という志乃の言葉に、危篤の父は、「良い男だ、志乃のことをよろしゅうお願いします」とつぶやき亡くなる。
志乃の父を演じたのは、信欣三。「きれいな気持ちで生きろ」と志乃を励ます気性のさっぱりした江戸っ子の役を好演している。

大晦日、哲郎は雪深い故郷青森の実家に志乃と帰り、年老いた両親と眼の悪い姉(岩崎加根子)の下で、ささやかに祝言を挙げる。病気の父が「高砂なんと、歌いやんしょうかな」と言って、震えもつれると、母、姉は「やめてくんしゃんせえ」と懇願するのであった。
「うちつづく子らの背信には静かに耐え得た父母も、こんなささやかなよろこびにはかくも他愛なく取り乱すのである」というナレーションの場面には胸が打たれジーンときた。歳を取ると親の気持ちが解かるというのは、本当である。
哲郎の父母を永田靖、滝花久子が演じて、何とも言えぬ老人の良い味を出している。雪深い駅に出迎えて、長靴を差し出すところは、母親らしい細やかな気遣いを感じさせられた。
尚、滝花久子は熊井啓監督の師匠田坂具隆監督の奥さんとの事である。

結婚初夜のシーンは、白黒の映像も優れて清潔感が溢れている。明け方、馬橇が鈴をならして帰っていくところを二人が見つめる場面は、本映画のクライマックスとなっている。

作曲は、松村禎三である。愛のテーマとも言える三重奏が、ギターで主導され、ヴィブラフォン、ハープが加わって演奏される。この主題は、たびたび現れ、主人公の孤独な心情、哀しみ、ささやかな愛の希望を静かに歌い上げる。このイ短調の曲は、単純な響きでなく現代音楽風でもあり、心の襞を描くような趣がある。ラストで二人が雪原の馬橇を見つめるシーンで、フルート、チェンバロ、弦楽器も加わって、瑞々しく二人の愛を大きく歌い上げる。日本映画音楽の中でも屈指の名曲だと思う。
私は、この作品をきっかけに、松村禎三の作品をいろいろ聴くようになった。
また、太田六敏の録音は、馬橇の鈴音といい、ギター、ハープの響きといい、見事に拾って劇的効果をもたらしている。

撮影は、昭和20年台後半を思わせる浅草浅草寺のほおずき市、深川木場の木材置場、東北の雪景色など季節感を伴ったロケが素晴らしく、モノクロの映画だけど白で薄く覆ったような色調で、猥雑さが無く清新さが際立っている。

映画は、原作に忠実だけれども映像や構成に工夫をこらし多面的に掘り下げていると思う。加藤剛は内面の苦悩とか陰りが足りない気もするが、凛として堂々と演技している。
栗原小巻は、顔のクローズアップのシーンが多いが、自然で言葉遣いが綺麗である。当時26歳、体当たりの熱演である。

主人公は、家や家族に関し恥辱の意識にとらわれていたが、我々も何かしらコンプレックスは持っているものである。人を愛すると言う事は、全てを曝け出すことが何より大切だとこの映画は、教えてくれていると思う。

キネマ旬報、毎日映画コンクールなど、この年のベスト1を総なめにした映画であり、今日観ても古さは感じない。機会があれば、是非観る事をお勧めしたい。
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まとめtyaiました【映画 「忍ぶ川」 (昭和47年)】

音楽が素晴らしい清冽な恋愛映画「忍ぶ川」は、三浦哲郎の自伝的小説で昭和31年に芥川賞を受賞した。小説を読むと、書かずにはいられなかった作者の切実感が伝わって来て、書く事で
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